防人に 立たむ騒きに

防人(サキムリ)に 立たむ騒きに家の妹(イム)が 為るべきことを 言はず来ぬかも

防人出立の際の騒ぎにまぎれて、残された妻にこれからしなければならないいろんなことを言わないでやってきてしまった。

若舎人部廣足万葉集巻二十・4364

・・・防人(サキムリ)・・・「サキムリ」は「サキモリ」の東国訛り。

・・・立たむ騒き・・・(防人に)出立するための諸事に紛れての意。防人は旅するためのあれこれも武器も自前であったため、出立の日までその準備に慌ただしい日を過ごさねばならなかった。

・・・妹(イム)・・・「イム」は「イモ」の東国訛り。

・・・来ぬかも・・・文法的に正しくは「来ぬるかも」であって、東国独特の形と思われる。

<考>

旅だって行く防人は、親からみてのかけがえのない子供であっただけでなく、残された家族にとって一家の長、家の稼ぎ頭である場合も少なくなかった。そんな彼らは農事に関してあれこれをリードする存在であったに違いない。そんな一人が抜けてしまう。その一家としての打撃は多かったであろう。この男、おそらくこの日まで一家の長として万事を取り仕切ってきたのであろう。それら全てのノウハウを残された妻に伝えねばならぬ。しかし、防人に選ばれてから、出立までの日数はそう多くはない。旅の準備もしなければならない。武器も自前で準備だ。そういった諸事に取り紛れ、残された妻に伝えるべきことを充分に伝えられなかった。男は残された家族が心配でならない。

ところで、防人が出た家は計算上、税を払わねばならない人員が1名減るわけだが、その分の税が減免されることはなかった。重い税の負担は残されたまま、働き手、しかも一家で最も屈強なはずの男手を失っている。そう言った意味では、防人は残された家族にも重い負担としてあった。

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