魯迅の小品ひとつ

久しぶりに魯迅の作品を読んだ。「小さな出来事」という作品だ。竹内好翻訳のこの小編は文庫本にして4ページほど。どんなにゆっくり読んでも5分もあれば最後を迎えてしまう。何度読み返しただろう。翻訳であるから、作者の描こうとした細かいニュアンスはどこまで再現されているかはわからない。けれども、訳者は竹内好だ。充分に楽しませてくれる。繰り返しの再読に耐えうる文章になっている。

中華民国6年、冬、寒い朝、主人公は人力車に乗っていた。まあ、ある程度豊かな階級であったのだろう。人力車は途中老婆と接触する。いかにも貧しそうな老婆が人力車の前を横切ったのだ。老婆は転倒したがけがをしたようすはない。誰も見ていなかったし、けがもさほどとは思えなかった主人公は老婆をほおっておいて、先に進むように車夫にうながす。

しかし、車夫はその言葉には従わない。老婆を介抱しようとする。老婆はけがをしたという。主人公は老婆の言葉を嘘だと思う。しかし、車夫は・・・・  老婆を連れて派出所に向かった。

主人公は異様な感じを覚える派出所に向かう車夫の後ろ姿が大きく見えだしたのだ。彼は次第に大きくなり、主人公の防寒服の内にある「卑小」を絞り出さんばかりになる。この日のこの光景はこの後主人公の脳裏を離れないものになって行く。

と、このような内容なのだが、くどくど解説はしない。ただ、このような文章に触れると人間とは良いものだと思ってしまう。お勧めする。