「そらみつ大和」と「あをによし奈良」と

元旦の昼下がり、退屈しのぎに近所にあるショッピングセンターに出かけた。いや、たしか午後3時を回っていたから昼下がりというには遅すぎるかもしれないが、まあ・・・そんなことはどうでもいい。問題は、そのショッピングセンターで見かけたものだ。

いわゆる地ビールというやつである。なんでもGolden Rabbit Beerという、奈良県生駒市にある会社の品であるそうだ。

このような品を見かけた時、通常の私はちらりとその銘柄を確かめることはあっても、それを手にとる・・・なんてことはしない。ほとんど興味を示すことなく通り過ぎるのが常である。なぜならば、私は世にいう地ビールというものにあまり興味を感じてはいないからだ。いわゆる大企業が作るビールとは違って、小規模な蔵で丹念に作りこんだ(可能性の高い)地ビールの方が美味しいものが多いだろうことは想像できる。ただ、美味しいということと私の好みに合うということは別の問題である。

1994年4月の酒税法改正以降、この地ビールというものが世に出回るようになった。アルコールの入った飲料には少なからぬ興味のある私が、これを試してみないはずはない。皆さんのご想像の通りに幾つかの地ビールを試してみた。

どれもこれも、それぞれのメーカーが材料選びから製法まで、一つの気を抜くこともなくビールづくりに取り組んでいることがよくわかる・・・そんな味わいの物ばかりだったが、これまたどれもこれもが好みに合わないのである。

おそらくこの地ビールなるものはその製造者がめざすところの最良のビールということになろう。だから、それぞれのビールが私にとって個性的に過ぎるのだ。たぶん、恐れることなくいくつもの地ビールに挑戦してゆけば、きっと私の好みにピタッと来る地ビールも存在するのだろうが、そこに突き当たるまで挑戦するには、この地ビールというものの値は高すぎる。それならば・・・と、値段も手ごろでその味も信頼のできる(美味いというわけではない、私の好みから大きくはずれることがないという意味である)、いつものやつに手を出すことになる。

そう・・・「麦とホップ」である(嗤)。

が・・・、この2本はちょいと違った。そのラベルに印字されたその「そらみつ」「あをによし」という文字が私の心を惹いた。

「そらみつ」は大和にかかる枕詞。日本書紀(神武天皇)に、物部氏の祖とされる饒速日命にぎはやひのみこと天磐船あめのいはふねに乗って太虚そらを翔けめぐっていたとき、この国(日本)を見つけて天より降りられたので、「虚空見そらみつ 日本の国」とお名づけになったといの地名起源説話があり、これによりこの枕詞の意味を考えると、「そらみつ」とは「空から見た」と考えるべきだろう。万葉集でのこの語の表記が

「虚見津」 「虚見」「虚見通」 「空見津」 「虚見都」 「虚見都」

とあることも、当時の人々がそのように理解していたことの証左となろう。

「あをによし」は奈良にかかる枕詞。「あをに」が「青土(染料として利用された)」、「よし」は「良し」と考えられる。奈良は良質の青土が取れることから、褒め言葉としてこの枕詞が出来たと考えられている。

いずれも大和に起居する私にはなじみの深い言葉である。

「あをによし」については言うまでもない。先日の記事にもお示ししたように

大宰少貳小野老朝臣歌一首

青丹よし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり

万葉集巻三・328

について書いた記事が、拙ブログ二つの中で最も多く読まれているということ、やはりこの歌にお世話になっていることは忘れてはいけない。

あをによし奈良の都は

咲く花の にほふがごとく 今盛りなり

そして「そらみつ」。これは上のこのブログのURLを見ていただければすぐにおわかりになるだろう・・・soramitu.net。そう、私のブログの住所として使わせていただいている語がこの語なのである。これまた非常にお世話になっている一語である。

そうそう、この醸造会社のGolden Rabbit Beerという名も捨ててはおけぬ。「金色の兎」というその名も私にはかなりかかわりの深い名なのである。大和をシンボライズする動物といえば、皆さんは奈良公園の「鹿」を思い浮かべになるだろうが、「兎」もけっして忘れてはいけない動物なのである。なんとなれば、私のブログにしばしば登場する大神神社の御祭神大物主大神のまたの名は大国主命である。ご存知の通り「兎」には非常にかかわりの強い神様である。したがって大神神社でも「兎」は尊重するべき動物で、その社務所には「なでうさぎ」と呼ばれる「金色の兎」の像が御鎮まりになっている。

この生駒にある醸造所は、この「金色の兎」からその名をいただいているそうなのである。

以上の理由で、その名を冠したこの2本を私は無視するわけにはいかぬ。少々値が張るのは気になったが・・・なあに正月である・・・ここは奮発しなければならない。

ということで、この2首の大和の地ビールは我が家の冷蔵庫に引っ越すことになった。そして「あをによし」のほうはすでに私の喉を潤した後である。副原料を使用せずに、特別なモルトを使用して醸されたこの赤みの強い一杯は「芳醇でしっかりとした味わいのビール」と評したらいいのだろうか。結構、満足のできる味わいであった。

そして・・・「そらみつ」は今我が家の冷蔵庫のドアポケットにて、静かに私ののどを潤す時を待っている。